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名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)1672号 判決

原告

山口淳

被告

平井秀幸

主文

一  被告は、原告に対し、金八四万六七三六円及びこれに対する平成九年一一月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一四四万五八七七円及びこれに対する平成九年一一月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は被告運転車両が電柱に衝突する交通事故によって被告運転車両に同乗していた原告が被った損害につき、原告が被告に対し自賠法三条に基づき損害金及びこれに対する事故日の後から完済まで民法所定の遅延損害金の支払を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  事故の発生

左記の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 平成九年一一月八日午後九時四八分ころ

(二) 発生場所 名古屋市瑞穂区石川町二丁目四番地先路線上(雁道線)

(三) 事故車両 普通乗用自動車(名古屋七四た八六七二号)

(以下「本件車両」という。)

運転者 被告

同乗者 原告

(四) 事故の態様 本件車両が本件事故現場を走行中、進路前方が左方向へのカーブとなっているところを被告がまがり切れず、対向車線に飛び出し、これを避けるため、自己の進行道路に戻そうとして、ハンドルを切り過ぎ、進路左側の電柱に衝突した。

2  原告の傷害

原告は本件事故により頭部外傷、脳挫傷、顔面挫創、左下腿挫滅創等の傷害を負った。

3  被告の責任

被告は、本件事故当時本件車両を運行の用に供していたものである。

4  既払金

本件事故につき自賠責保険から合計一二〇万円が支払われた(甲六の1、2)。

二  争点

1  原告の症状固定時期

(被告の主張)

原告の症状固定時期は平成一一年一月六日より以前である。

2  逸失利益

(原告の主張)

本件事故による原告の受傷のため、原告の父の経営する飲食店が営業が困難となり、損失を被った。右も本件事故による損害に該当する。

3  その他原告の損害の内容、損害額、既払金

第三争点に対する判断

一  前記争いのない事実等並びに証拠(甲一の1、2、二、三の1ないし8、九の1、2、一〇の1、2、一三の1、2、二一、二三、原告、被告各本人)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

1  原告は、平成四年ころガソリンスタンドでアルバイト勤務をしているとき被告と知り合った。

原告と被告は、平成九年一一月ころ久しぶりに会った。被告は、その際原告に対し同月八日午後七時四五分に待ち合わせて会うことを約した。

そして原告と被告は右時刻ころに会った。被告は、その後原告を本件車両に同乗させ、名古屋市内の飲食店に行き、同所で原告と共に飲酒をした。右飲酒に伴う費用は原告が負担したが、被告も応分の負担をしたい旨を述べたことから、原告もこれに応じることとなった。ただ、被告が当時現金を所持していなかったことから、一旦被告の友人宅に寄り、代金の精算をすることとなった。そしてその途中、同日午後九時四八分ころ本件事故現場において、本件事故がおきた。

2  本件事故現場は左方向へのカーブとなっており、その制限速度は時速四〇キロメートルであったが、被告は、時速六〇キロメートルを超す速度で本件車両を運転し、減速することなく前記カーブに入ったため、まがり切れず対向車線に飛び出し、これを避けるため、自己の進行道路に戻そうとしてハンドルを左に切り過ぎ、進路左側の電柱に衝突した。

3  本件車両の助手席に同乗していた原告は、本件事故により頭部外傷、脳挫傷、顔面挫創、左下腿挫滅創等の傷害を負った。このため原告は、平成九年一一月八日から同月二九日まで(二二日間)名古屋市立大学病院脳神経外科、整形外科に入院し、その後平成一一年一月六日まで(実日数八二日)同病院整形外科、脳神経外科、眼科、リハビリテーション部等に通院し治療を受けた。原告の前記症状中特に頭部外傷、脳挫傷等については同病院脳神経外科において長期間の経過観察を要したが、いずれも同日までに治癒となった。

4  原告は、父の経営する飲食店「みやび庵」に勤務するかたわら株式会社吉田金属製作所に勤務していたが、本件事故により、本件事故のあった平成九年一一月八日から「みやび庵」については同年一二月三一日まで、株式会社吉田金属製作所については平成一〇年六月四日までいずれもその勤務ができなかった。

以上のとおり認められる。

二  右の事実に基づき原告の損害につき判断する。

1  治療費、文書料(請求額既払金を除き四二万九五五〇円)

既払金を含み四一万二三六〇円

証拠(甲五の1ないし9)及び弁論の全趣旨によると、本件事故による原告の治療については社会保険の適用があり、その治療費、文書料(診断書作成料)の総額は頭書金額となることが認められる。

被告は原告の症状固定時期を争うとするが、本件は前記のとおり平成一一年一月六日までに各症状が治癒したというものであるから、そもそも症状固定時期というものはない。そして被告の右主張が過剰診療をいう趣旨であるならば、前記認定の事実によれば、原告については名古屋市立大学病院各科の適切な診療、診察を受けていたことが認められるものであり、格別過剰診療があったとは認めることができず、前記治療費等はいずれも本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。もっとも右主張が休業損害等の算出に当たり長期の治療を経たことを考慮するようにとの主張であるならば、後記認定のとおり、各損害項目を算定するに当たり判断されるものであり、格別前記認定、判断を覆すものとはいえない。

また被告は、前記治療費等のうち文書料の支払の必要性を争うが、前掲証拠及び弁論の全趣旨によると、右は原告が自賠責保険金等の請求のため必要であったことが認められ、本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当である。

他方原告は、被告に対する内容証明の送付料も文書料として請求する。しかし、その文書内容も明らかではなく、直ちに被告の負担すべき損害と認めることはできない。

2  入院雑費(請求額二万四二〇〇円) 二万八六〇〇円

前記のとおり原告は二二日間名古屋市立大学病院脳神経外科、整形外科に入院したところ、右入院に伴う入院雑費は一日当たり一三〇〇円をもって相当とするので、その合計は頭書金額となる。

3  通院交通費(請求額五万五五七〇円) 五万二八〇〇円

証拠(甲七の1ないし7)及び弁論の全趣旨によると、原告の前記入通院に伴う交通費として五万五五七〇円を要したこと、もっとも平成九年一二月五日は往復タクシーを使用しその料金合計は三五七〇円であったこと、仮にタクシーを使用せず公共交通機関を使用したときには、往復八〇〇円であることが認められる。

右タクシー使用の必要性については本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。そこで、右タクシー代分を公共交通機関使用の代金に換算すると、前記の総額は頭書金額となる。

4  眼鏡代金(請求額なし) 四万二二一〇円

証拠(乙四)及び弁論の全趣旨によると、本件事故の際に原告の眼鏡が壊れ、これを再度取得するため、頭書金額を要したことが認められる(原告は本訴において右金額を請求しないが、後記既払金の関係で損害額の一部として計上する必要がある。)。

5  休業損害(請求額六〇万七〇五六円) 五五万九九五〇円

原告は本件事故後、「みやび庵」及び株式会社吉田金属製作所における勤務ができなくなったこと、その分の休業損害額が六〇万七〇五六円であることを主張し、これに沿う証拠(甲九の1、2、一〇の1、2)を提出する。しかし、前記のとおり特に「みやび庵」は原告の父の経営する飲食店というものであり、同所が作成した前記証拠は直ちには採用できない。

ところで証拠(甲二四の2)によると、原告の事故前年である平成八年の年間給与収入が一六七万九八五〇円であったことが認められる。そこで、右金額を基礎とし、前記入通院日数、通院実日数等も考慮して、本件事故後四か月相当分につき休業損害を認めるのが相当である。

これによると頭書金額となる。

1,679,850÷12×4=559,950

6  逸失利益(請求額三五万六七四五円) 〇円

原告は、原告の入通院により前記「みやび庵」の営業損害が発生したとして、その金額を請求する。しかし、仮に右事実があったとしても、これを原告の父が請求することはともかく、原告が請求することはできないから、右主張は失当である。

7  慰謝料(請求額一三六万二五〇〇円) 一五〇万円

本件傷害の内容、前記入通院期間、通院実日数等を考慮すると本件事故に基づく原告の傷害慰謝料は頭書金額をもって相当とする。

8  小計(請求額治療費等の既払金を除き二八三万五六二一円)

治療費等の既払金を含み二五九万五九二〇円

以上の合計は頭書金額となる。

9  好意同乗減額

前記認定の事実によると、原告は被告と本件事故前は友人関係にあったこと、本件事故直前の飲酒も双方の交遊を深めるためされたこと、本件事故は飲酒後、飲食代の負担、精算のため一旦被告の友人宅に寄る途中に生じたこと、前記飲酒により被告がハンドル操作を誤ったと考えられることが認められる。

右認定の原告と被告との事故前の関係、本件事故の原因たる被告の過失内容と、原告との交遊関係等の事実を考慮すると、公平の見地から、原告の前記損害中二割についてはこれを減額するのが相当である。

これによると原告の損害は二〇七万六七三六円となる。

10  既払金 一二三万円

証拠(甲六の1、2)及び弁論の全趣旨によると、本件につき自賠責保険から合計一二〇万円が支払われたこと、被告は原告に対し他に見舞金等として三万円を支払ったことが認められ、その合計は頭書金額となる。

被告は、他に治療費等合計三七万七三八〇円の支払を主張するが、証拠(甲六の2)及び弁論の全趣旨によると右は後日自賠責保険から被告に対し支払われたことが認められ、したがって、右につき別途既払金とすることは相当ではない。

11  総合計 八四万六七三六円

以上の総合計は頭書金額となる。

第四結論

よって、原告の本訴請求は被告に対し損害金八四万六七三六円及びこれに対する本件事故日の後である平成九年一一月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤章功)

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